『官民協働』と聞くと「結局は大企業とかが官公庁の入札をして仕様書通りにやってるだけでしょ」と思う方も多いのではないでしょうか。
『オープンイノベーション』と聞くと「ああ、”会議は躍る、されど進まず”の好事例みたいなヤツね苦笑」と遠い目をする新規事業担当者も多いのではないでしょうか。
そんな方々が必見なのが” 官民協働 × オープンイノベーション ”なプロジェクト。
『 経営デザインシート リデザイン コンペティション』。
「経営デザインシート」とは、政府の知的財産戦略本部が2018年5月にリリースしたフレームワークで、周囲の環境変化を踏まえ、将来の価値を生む仕組み・思考・行動をデザインするツールです。ちなみにこのシートは将来の戦略策定のために非常に良いツールなのですが、、、どうやって何を記入したら良いのか迷うほど分かりにくいという特徴があります。
そこで、内閣府知的財産戦略推進事務局(以下、内閣府)×ビビビット×Publinkという” 官公庁 × ベンチャー企業という異例の組合せ”で開催されているのが『 経営デザインシート リデザイン コンペティション』です。
※経営デザインシートを詳しく知りたい方はこちらをご参照ください(https://www.vivivit.com/entries/keiei-design-sheet)
内閣府とベンチャーという組合せによる” 官民協働 × オープンイノベーション ”の、背景・メリット・実現に至るプロセスやポイントについて対談の中で紐解いていきます。
目次
1)きっかけは”相談とディスカッション”
2)成長するために『 異例 』にトライする
3)仕様書通りではない「こうした方がいいのに」が実現する進め方
4)プロジェクトを共に育てるパートナーとして強みを活かしあう
5)官×民が対立せず、対話ができる『 温かさ 』
6)社会に個人が新たな価値を問うていく時代が来る
きっかけは”相談とディスカッション”
元々はビビビットが「地方デザイナーのIターン、Jターンの雇用を増やしていくことは、社会的に必要なことではないか」と思っており、その考えを言える場を探していました。
こう考えるようになったのは、当社の運営するクリエイターに特化した採用プラットフォーム「ViViViT」の体制が徐々に安定してきて、今後の僕の役割は、デザインに関する人材や市場そのもののポテンシャルを引き出すことだと感じていたという背景もあります。
そうしてこの件をPublinkの栫井さんに相談したら、栫井さんが内閣府の担当者を紹介してくれました。その打合せでディスカッションしていたらたまたま経営デザインシートの話になったんです。
「そもそも経営デザインシートのデザインが、いけてないですよね」って(笑)。
クリエイターに特化した採用プラットフォーム「ViViViT」
ディスカッション中に「いけてない」と言われた例の経営デザインシート
(引用:首相官邸サイト)
ビビビットでは、デザイナーが早いうちからデザインの意味を理解してキャリアを歩めば、ビジュアライズも思考の質も変わっていって、社会からより幅広い領域で求められる人材になるのではないかと考え、そのような高度なスキルを持つデザイナーの育成方法を模索していました。
そして、経営デザインシートのお話があがったときに、このシートのリデザインを学生に考えてもらうコンペティションを開催することで、そのような思考を養う機会を提供できるのではないかと思ったのです。
内閣府さんとしても経営デザインシートに課題を感じていたということで、テーマが合致したんですよ。
ちなみに内閣府での課題意識ってどういったものでしたか。
国が創った経営デザインシートにUI・UXって概念は不要って思ってたんです。ユーザーが自分の使いやすいように自分でカスタマイズすればいいし、そもそも色や形が発想に影響を与えるという”着想”がなかったんです。
でも、幾人かの方から「発想をかき立てるデザインや見たら描きたくなるデザインがあるだろう」という意見があって、「本当かよっ!?」と思ったわけです。
ただ、本当にそうならやったほうがいいけど、そのノウハウは国にはない。そこでビビビットさんのようなデザイン能力を持った人が集まるプラットフォームを運営している人を紹介頂いたのは渡りに船だったんです。
それに小宮さんが仰るような経営デザイン人材の育成を進めていかなければならないと思っていたところでもあったんです。
だから、とても期待を持って進めているプロジェクトです。
成長するために『 異例 』にトライする
でも、ビビビットが提供するプロダクトや組織の出来ることの最大値をあげるためには、異例なことにあえて取り組む必要性もありました。
実際に、実利以上に社会からの認知やマーケティング、信頼、実績の部分で、ビビビットの可能性や提供価値を拡げることが出来ると見込んで、やることを決断しました。
ですので、Publinkさんが内閣府さんとのコミュニケーションや気を付けるポイントやルールを支援してくれて助かりました。
お互いの当たり前が違うので、後援の名前の入れ方ひとつをとっても調整が難しくて、そのタイミングでお互いの前提を第三者的に揃えて建設的な議論を進めてくれる存在が必要でした。
正直、“ただ、繋いでもらうだけ”では、上手く行かずハードルがもっと上がっていたと思います。
会議とかもそうですけど、今回もフェイスブックのメッセンジャーでやり取りしてるときに、良いところで栫井さんが入って全体の方向性を揃えてくれました。
実際のFacebook Messengerのキャプチャ抜粋。大学の友達かなと思うくらい、フランク。
仕様書通りではない「こうした方がいいのに」が実現する進め方
行政の持っている悪い意味での『融通の利かない仕事の仕方』は、一面では良い意味での『全体効率性と社会の公平と安定のため』ですが、そこから飛躍して、仕事の進め方を工夫しないことを正当化してあぐらをかくための『役所は固くあるべし』という固定観念が産み出されている面もあるかもしれません。
もっと、プロジェクトごと、シチュエーションごとに最適な仕事の仕方を選ぶべき、と。
普通の入札だと本当は「こうした方がいいのに」があってもできないですから。
難しいのは、全体効率のためには個別の工夫はしない画一主義的な「優秀な歯車」を組織は求め、それが「仕事ができる」とされてしまうこと。
そうすると「こうした方がいいのに」があっても、元のゴール設定、つまり公共事業で言えば仕様書から少しでも漏れていれば評価されない、場合によってはマイナス評価になってしまう。
評価されたければ「こうした方がいいのに」を思っても、それをせずに本質的にはイケてないと感じながら、その認知的不協和(自己矛盾によるストレス)を抑え込まないといけない。それがさっきの『役所は固くあるべし』という固定観念が産み出された原因です。
難しい問題です。
ただ、担当者間の関係性やお互いの課題意識の合致というバックグラウンドもあって「こうした方がいいのに」とアライアンスパートナーのように進められたのは、支援しているPublink側としても非常に印象的でした。
プロジェクトを共に育てるパートナーとして強みを活かしあう
社外には、経営デザインシート自体を知らなかった層にリーチできているという実感はあります。
学生やデザイナーなど、いままで内閣府さんがリーチできていなかった層です。
参加者や審査員側としても、基本的には「楽しい祭りなら参加したい」と考えるはずですよね。
でも、今回は祭りの詳細を言わなくても「内閣府さんとの仕事ならやってみたい」とすぐOKを出してくれた方もいてくれて、結果的にそれが企画を成立させることに繋がりました。
内閣府の中の話をすると、ぼくがもじもじしてたら大臣が気にしてくださって、新たな取組でも話が進みやすくなりましたね。ビビビットさんのアピールのおかげだと思います。
官×民が対立せず、対話ができる『 温かさ 』
「アジャイル的に小さく始めて、大きく育てよう」と言っても、いざ自分に責任が及ぶとなると、言っている人自身が「それは民間のやり方」と言ってしまったりして。
プロジェクトが拡大するほど関係者や影響力が増すことで難しくなりますしね。
昔なら霞が関にあらゆる責任と、その反面としての情報や権限といった資源が集まってきたのだろうけど、いまでは民の方がそうした資源を持っている状況も現れています。
だから、『行政だから失敗しちゃいけない』とか『民間だから失敗を恐れてはいけない』という主体者に応じた『●●は△△である』という考え方が妥当しないことを認めるべきだろうって。
というか、行政であれ民間であれ、成功のための挑戦が奨励されて、そのためには結果としての失敗を許容値の中に収めるのは同じなはず。民間だって、ただただ失敗が許されている訳ではないですよね。なのに、行政は失敗しないことが前提になっているので、失敗の許容値は見積もりません。反作用として挑戦が抑制される。
どういう事業を、どんな対象に対して、どんな効果を狙って、どのように実施していくか。
“事業”と”対象”で仕事の仕方を変えていくべきなんではないかなと強く感じています。
それと、民間側からの働きかけに反応して動いてくれる温かさみたいなものを感じています。
そういう場所でありたいし、あるべきだし、そういう人でありたいです。
真っ当にトライすることで物事が良い方向に動いた、という結果に対して、民間も行政も個人も関係なく、適正な評価が伴う、そんなあり方を増やしたいですよね。
その時に重要なのは、官と民、つまり異なる文化や行動原理を持つ人同士が1対1で会って、お互いの暗黙知や行動ルールを前提に動いてもフラットな反応は起きない。
だからこそ、両方の言葉を翻訳出来る第三者が入り、お互いの組織から1歩離れたサードプレイスという場所でフラットに話す環境が大事だと思っています。
もしくは、どちらかが支配して従属する、仕様書と外注先の関係でもよくありますよね。
そこに橋掛けてくれると関係性が変わる。
それは大事ですね。
社会に個人が新たな価値を問うていく時代が来る
広義でも狭義でも、課題解決のツールとしてデザインやクリエイティブを使えると思っていない人も多いと感じているので、それを少しでも変えていければと考えています。
国政においても社会課題への取組や市場での競争力向上を図る中で、デザインの力を取り入れてる必要があると思っているので、この考えに共感してくださる方と一緒になって進めていきたいです。
伝わらないと始まらない。
例えば行政の子育ての相談窓口のチラシひとつとっても、そこが接点だとすると「ここに相談してもどうにもならなそう」なデザインになるとそこで入り口が閉ざされてしまいますよね。そういった行政と住民や企業との入り口のデザインをコンペで集めるとか色々な解決がありますね。
社会に対して、こういう価値(VALUE)もあるべきではないか、と問うていきたい。
今日出た話で言えば、『優秀な歯車で本当にあなたは幸せなのか?』とかね。
人に評価を受けなくては不安で、そこに認知的不協和が起きても目を背けて、自分をごまかすのは幸せですか、と。
これからの日本は、色んなトライアルが認められて、ひとつの価値で縛るよりもみんなが自分の野望を持って、試して、社会に対して自分を問うという世の中になることが必要になる。そうなると良いな、という甘い希望でなく、望む望まざるとに関らず、生き残るために必要になるんです。
ぼくは、ひとりひとりが内発的な動機に基づいてトライアルしていくという考え方をシェアし、そんな人をエンカレッジしていきたい。今回のプロジェクトも「こんなダサいもの」という憤りで「物申す!」みたいな提案が来ることを凄く求めています。
リデザインコンペを通して、社会に自分の価値観を問うて欲しい。
表彰された人にはどうしてコンペに参加したのか、その動機を語ってもらいたいですね。
・経営デザインシート リ・デザインコンペティションについての詳細こちら
https://www.vivivit.com/entries/keiei-design-sheet
・作品でマッチングする採用プラットフォーム「ViViViT(ビビビット)」について知りたい方はこちら
・ビビビットの運営するWebメディア「ビジネス部デザイン科」で豪華審査員陣のインタビュー記事も読めます!
https://bizdez.vivivit.com/category/special
(取材協力:内閣府、株式会社ビビビット|取材・対談:栫井|撮影・編集:深山)
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